リー・クワンユーは、教育は育成ではなく選抜のシステムだと考えていたという。
個人的にこの考えには大反対だが、シンガポールの教育制度はこの考えを如実に反映していて、早いうちからの競争・選抜が特徴だ。日本の受験戦争も過酷と言われるが、シンガポールを見ると日本は穏やかだと思う。


シンガポールの学校システム



シンガポールの義務教育は何と小学校までで終わり。12歳でPSLEという大掛かりな受験があり、その結果によって学校が振り分けられ、その後も度々ある受験の結果によってどんどん学校が分岐していくため、その分複数の道筋があり、日本より学校制度が複雑になっている。
敗者復活制度もあり、例えばPSLEでNormalという学校に入れられても、その後の試験で優秀な成績を納められれば大学に行ける。

最終学籍としては、下記3つのどれかに分類される。
・大卒以上
・ポリテクニック
・その他(Technical Education / Arts Institutaions)



シンガポールのお受験と教育ママ


小学校後のPSLEは人生を分ける大受験。上記の通り敗者復活戦もあるのでこれで人生が決まるとは言えないが、それでもこの時期から選抜が始まるのは個人的には早すぎると思う。(日本でも中学受験が盛んな都市部は似たような状況かも知れないが)

日本において子供の都合で女性が仕事を辞める時期といえば出産前後または乳児期だが、シンガポールでは子供がPSLEを迎える頃に子供のサポートを優先するために仕事を辞めてしまう女性が一定数おり、私の現在の同僚もその時期に一旦辞め、その後復帰している。
女性の仕事継続のサポートのため、PSLE休暇を制度として設けている会社もあるくらいだ。

シンガポールではいわゆる教育ママのことをTiger momというが、この比率は日本より高いし、度合いも強い様に感じる。ちょっと友達と遊んだりご飯に行ったりするのも制限する母親が多いようだが、私の意見では受験は子供自身が向き合うものであって、親が仕事を辞めてなんとかできるものではないと思う。
私自身の両親が放任型だったから余計にギャップを感じるが、後述する「勉強が全て」というシンガポールの考え方と合わさってシンガポールの家庭教育は窮屈だし、人格形成という部分にフォーカスがまるで当たっていないように見える。


意外に低い大学進学率とポリテク


シンガポールの大学進学率は30%前後。日本や多くの先進国が50%前後なのに対して極端に低い。
しかしそこはシンガポール。進学率を上げたいのに上げられないのではなく、敢えてこのレベルに抑えているのだ。

そこまで多くの人に高度な教育は必要ないと考えられているため、大学は本当にエリートが行く狭き門。
大学より下のレベルとしてポリテクニックという教育機関(通称:ポリテク)があり、大学がアカデミックに学問を追求する場であるのに対し、ポリテクニックは産業界と連携してより実務的な教育を行なっている。

日本ではレベルの低い大学を卒業して高卒と同じような仕事しかできない人もいることを考えると現実的なシステムではあるし、シンガポールでポリテクニックを出ている人は日本の大卒くらいのレベル感と思って問題ないと思う。
一方、ポリテクは大卒資格ではないいので、例えば大学院等に進みたい時に特殊なCertificateが必要になるなど、将来の選択に制約ができてしまう。


シンガポールの大学


シンガポールには大学は三つしかない。
どれも国際的に有名で、アジアを中心に留学生も多数受け入れているため、シンガポール人にとって国内の大学に入るのは狭き門だ。

そんな厳選された3つの大学を紹介。
ランキングは2019年のTimes世界大学ランキングを参照した。

・シンガポール国立大学(通称NUS : National University of Singapore)
シンガポールの超名門。世界大学ランキングでも23位とアジアトップクラス。
受験の難易度で言うと東大より低い印象はあるものの、教授・学生ともに世界各国から優秀層が集まり受けられる教育の質が高いことは間違いない。
西部にKent Ridge周辺に広い敷地に学科ごとに棟が立っており、日本の総合大学を彷彿とさせる雰囲気。

・南洋理工大学(通称NTU : Nangyan Technological Univerity)
シンガポールNo2、世界ランキングも51位。理工系が中心ではあるものの、経営学や心理学など文系の学科も揃えた総合大学である。
シンガポールの東端にある。

・シンガポール経営大学(通称SMU : Singapore Mangement University)
名前の通り経営や会計などのビジネス関連の学科を中心とした大学。
文系で施設が要らないからか経営の大学だからか、中心部Bras Basahという駅の目の前にある。

ちなみに日本の大学では東京大学が42位、京都大学が65位。


シンガポールでの海外留学の位置づけ


シンガポール国内の大学に入るのが難しいため、国内の大学に入れなかったから留学するという人達が出てくる。
そういう人たちに特に人気なのはオーストラリア。シンガポールに地理的に近くて英語で教育が受けられ、大学も沢山あるため、シンガポール人でオーストラリアの大学を出ている人をしょっちゅう見かける。

上述の通りポリテクは大卒資格ではないため、シンガポールの大学に入れなかった人で、大卒資格をどうしても取りたいという人、そして家庭に留学するだけの経済的な余裕がある人であれば、オーストラリアに留学するのが定番だ。
もちろん私の知人のようにシンガポールで勉強できない科目を学ぶために留学したという人もいるので、一概には言えないが…

一方、イギリスやアメリカに留学している人は国内大学卒業者を上回るエリートが多い(もちろん大学によるが)。
特にイギリスは旧宗主国でシンガポールと教育制度も似ているし、リー・クアンユーを始め多くの政治家達がイギリスの大学出身であることから、成績優秀者には留学のための奨学金が支給され、帰国後は政府機関で働く人が多い超エリートコースになる。
近年はハーバードなどアメリカの有名大学に留学する人も増えている。


シンガポールと比べて、日本の教育のいいところを考えてみる


シンガポールと比較して思うのは、日本では部活動などの勉強と関係ない要素も教育の大事な一面と捉えられている点だ。バリバリの受験校であっても、部活や文化祭が盛んな学校は多いと思う。
「子供時代に勉強しかしなかった人はろくな大人にならない」という考えは日本社会に浸透していると思うし、就職活動に至っては勉強の話はほとんど聞かれず、サークルやアルバイトの話ばかり聞かれるくらいだ。

私自身の経験から言っても、部活動などはチームワーク・リーダーシップ等を学ぶのに有用な経験だったし、その様な経験をせず勉強だけして大人になっても、実社会で活躍できるような人間になると思えない。

もちろん部活の影響で体罰やパワハラなど負の文化が受け継がれてしまっている部分もあるし、大学教育のレベルが世界的に見てあまりに低いのは日本の教育の問題点の一つだと思うが、それでも勉強が全てではないという考え方には私も大賛成だ。

一方シンガポールは、勉強さえできれば良いという考えに近く、部活動などはお遊び程度で日本の様に真剣には取り組まない。
また芸術・スポーツ・美容など勉強以外で得られるキャリアに対して十分な教育制度・キャリアパスが整っておらず、その様な仕事は二流または亜流と考えられやすい。


余談として、私の会社では毎年スポーツ大会を行なっているが、毎年日本人出向者が口を揃えて指摘するのはシンガポール人の運動神経の悪さだ。日本では学生時代運動部に所属している人が多いため、どのスポーツをやっても社内にその部活出身のすごく上手なプレイヤーがいるし、他の人たちも別の運動部を経験しているため全体的なレベルが高い。
一方のシンガポール人は、プレーしても日本の学校の授業以下のレベルだし、ルールすらまともに知らないこともある。私自身は文化部出身の運動音痴で、日本にいた時は気が引けてスポーツなんてする気にならなかったが、シンガポールでは皆自分と同じくらいレベルなので、安心してプレイできる。

国全体のスポーツのレベルがここまで違うのは滑稽だが、株式会社シンガポールといわれる所以の一つは、このようなお金にならないことへの熱量の低さなのだろう。


以上、批判が多くなってしまいましたが、シンガポール人について理解する大事な要素である教育について私の考察を述べてみました。
皆さんの周りのシンガポール人・家庭を理解する一助になれば嬉しいです。